So-net無料ブログ作成
検索選択

澁澤龍彦 ~幻想美術館~ [美術*Art]

小説家、フランス文学者、そして独自の好みと美意識による美術エッセイを残したことで知られる澁澤龍彦さんの没後20年を記念した『澁澤龍彦~幻想美術館~』に行ってきました。

澁澤先生は、私の最もお気に入りの作家なのですが、
プライベートな面では知らなかったことが多く、例えば、
私の住まいと同じ埼玉の、名家の出であること、渋沢栄一さんの縁戚であること、
また、マルキ・ド・サドの『悪徳の栄え』の翻訳により、裁判で有罪になったことなど、
今回の展覧会では先生の生い立ちから晩年まで追うことができて、
彼が好んだ素晴らしい数々の美術品を鑑賞するのみではなく、
そういう意味でも私にとっては非常に有益な展覧会でした。

「幻想的な美術や芸術作品に惹かれる私の性質は、
その奥にどんな心理的な理由がひそんでいるのか知らないが、
自分としては、性来のものとしか言いようがない。
そういう次第で、私はヨーロッパの幻想画家の画集をあつめ、
悪魔学や錬金術やエロティシズムに関するテキストならびに研究所をあれこれ渉猟し出した。」

~幻想の画廊から~ あとがきより

以下は無料で配られていたチラシの絵(写真)より抜粋したものです。
また、カテゴリーは展覧会のものとは異なります。

■□ 澁澤龍彦の肖像 □■


細江英公 『澁澤龍彦(知人の肖像より)』 1965年

スペイン奇才 ガウディのサグラダファミリアをコラージュした作品。
澁澤先生の眼鏡を外したお顔を初めて見ました。
元々のお写真はまだ学生時代のものでしょうか…だとしたら、この後、
恐ろしいほど鋭く、芸術家たちの精神世界を暴くように論じあそばすとは、
とても思えないようなあどけなさがありますね。
この他にも素顔を見ましたが、オリンピックで活躍したスキー選手の荻原健司さん兄弟に似てるな思いました。

その他、池田満寿夫さんのコラージュ作品である『聖澁澤龍彦の誘惑』という作品がありまして、
これにはそれを前にして思わずニヤリと笑いを浮かべてしまいました。
聖人であるアントワーヌ(アントニウスとも)が、数々の誘惑=試練を受けるという有名な『聖アントワーヌの誘惑』のパロディなわけですね。
澁澤先生の周りに、妖怪だの妖婦だのといかにも先生の興味を惹きそうなものが群がっていて、
しかもポップな印象を受けるとても楽しい作品でした(*^^*)

■□ 澁澤龍彦の夢の中の女たち □■


ポール・デルヴォー 『夜の通り(散歩する女たちと学者)』 1947年

実物は幅が2メートルくらいもある大きな絵で、
眺めていると、まるで自分もその空間に居るように感じられます。
澁澤先生にとってデルヴォーの描く女性は「自分の夢の中にもこのような無表情の女性たちが歩き回っていたが気がする」と言ってノスタルジーを覚える存在だったようです。
また、デルヴォーがこのように皆一様な顔立ちの女性を描くのには、
幼年期から思春期に至るまで、母親による絶対的な権威によってその情欲を抑圧されていたものが、
その後母親が亡くなるやいなや爆発したものによるらしいということであり、
そしてまた、“彼女たち”には畏敬の念を抱いていたその母の面影が現れているということから、
いわば彼にとっての理想の幻影だったわけですね。


金子國義 『花咲く乙女たち4』 1966年

この他にもこの画家の作品がありましたが、どれも赤が特徴的で、際立って美しく思えました。
この絵の女性たちも無表情で、デルヴォーの女性と、
それからやはり先生お気に入りのバルテュスの、
人形のようなよそよそしさが共通していると思います。

■□澁澤龍彦のお気に入り戯画 □■


ジュゼッペ・アルチンボルト 『ウェイター』 1574年

珍奇な物を愛好し、蒐集していたというハプスブルグの皇帝たちの趣味を大いに喜ばせ、
画家としてだけではなく、宮廷の美術顧問として蒐集室へ納める品々の鑑定役まで務めていたというアルチンボルトのユーモラスな作品。
皇帝たちの求めに応じて、様々な職業の者たちの肖像を、その仕事に縁のある品を使って表したそうです。
春夏秋冬を、その四季ごとの風物を組み合わせて表した『季節』の肖像も有名ですね。
先生はアルチンボルトの作品を“彼の絵画における名人芸”とサラリと文中で仰っていて、
なるほどそれは言い得て妙であるな~とちょっと感動しました。


伊藤若冲 『付喪神図』 

澁澤先生は日本の美術に対しても決して疎いわけではなかったということですけれど、
それでも展示品が少なかった日本画のうち、若冲と酒井抱一という、
私にとってもお気に入りの画家の作品を見ることができて嬉しかったです♪
若冲は、寸分の狂いもない研ぎ澄まされた細密画を描くかと思えば、
このような愛嬌たっぷりの絵を描いたりしたところが面白いですね。
しかし、本人はさほどユーモラスさを意図して描いたのではなく、
本人のお人柄が滲み出た結果ではないかと思わせる、なにか飄々としたものを感じるのでした。
また、精神のバランスを取る効果もあったでしょうか。
他の作品とは違って、この絵と抱一のものだけはガラスケースに入っていて、
間近で観ることができなかったのが残念でした。

■□ 澁澤龍彦へのオマージュ □■


四谷シモン 『天使 ~澁澤龍彦に捧ぐ』 1988年

写真で観ていた時は、卓上に置ける程度の大きさだと勝手に思い込んでおりまして(;^^)
しかし実際は等身大ほどもある大きさでしたのでとても驚き、そして感動しました。
もしかしてシモンさんの作品って、みなこの様に大きいのかしら。。。
この像は少女とも少年ともつかぬ甘美な表情が素敵です☆
ヘルマフロディトスの両性具有の美に魅入られていた先生ですから、
これにはとても喜んでいらっしゃるでしょうね~。

その他、この最後の一室には、先生の身の回りの遺品や原稿、また、
篠山紀信氏撮影による、書斎とその続きの間の写真が展示されており、
これが瀟洒な洋館といった趣でロマンがあってとってもお洒落!
さすがはふらんす文学者だな~と感心。

そして、数人の芸術家による先生へ捧げる作品からは、どれも穏やかな愛が感じられて素晴らしかったです。
中でも、奈良原一高さんの作品とそしてタイトルに、私は特に顕著にそれを感じました。
「サド侯爵には会えましたか…?」
サド侯爵が大好きで、その翻訳によって裁判沙汰になったりしましたけれど、
侯爵直筆の手紙(←今回展示があります)を手に入れて自室に飾っていたほどですから、
きっと天国では、真っ先に彼に会いに行かれたのではないでしょうか(^^)

ということで、澁澤先生の生涯、功績、趣味をとことん堪能できる展覧会で、
ファンにとっては素晴らしいひとときでした。

5/20(日)まで埼玉県で開催後、他都市へ巡回するそうですが、
どうしても行けない方には、展覧会にあわせて出版されたらしい『澁澤龍彦 幻想美術館』がおススメです。

今回の展示作品を網羅しているほか、合わせて310点の美術品が掲載されています。

澁澤龍彦幻想美術館

澁澤龍彦幻想美術館

  • 作者: 巖谷 國士
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2007/04
  • メディア: 大型本

また、展覧会に出かける前に、澁澤さんの著作を読まなくとも十分楽しめるはずですが、
以下の作品を読めばより楽しめるものと思い、独断で4冊挙げてみました。
ぜひ、ご一読なさってみて下さいませ♪

幻想の画廊から―渋澤龍彦コレクション   河出文庫

幻想の画廊から―渋澤龍彦コレクション   河出文庫

  • 作者: 渋澤 龍彦
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2001/12
  • メディア: 文庫

『幻想の画廊から』
レオノール・フィニー、バルテュス、ダリなど、シュルレアリスム系を中心とした美術エッセイ。

幻想の彼方へ

幻想の彼方へ

  • 作者: 渋澤 龍彦
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 1988/10
  • メディア: 文庫

『幻想の彼方へ』
上記の 幻想の画廊から のつづき、あるいは補足と言ってもよいでしょうか、
重複しているところがありますが、より芸術家たちへの理解が深まります。

裸婦の中の裸婦

裸婦の中の裸婦

  • 作者: 澁澤 龍彦, 巖谷 國士
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2007/04
  • メディア: 文庫

『裸婦の中の裸婦』
執筆途中に病に倒れ、残りの章を巌谷國士さんに任せて出版されたという遺作。
絵画のほか、ヘルムート・ニュートンの写真なども掲載されています。

ヨーロッパの乳房

ヨーロッパの乳房

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 1987/10
  • メディア: 文庫

『ヨーロッパの乳房』
初めて訪れたヨーロッパ各地の紀行文集。
著作に頻々と登場するルートヴィヒ2世の夢の城・ノイシュヴァンシュタインのほか、
イタリアにある奇怪なボマルツォの怪物庭園や同じくイタリアの骸骨寺など、
先生らしいグロテスク趣味炸裂!の場所も紹介されていて非常~に面白いので、
特に旅行好きの方、お勧めでございます。

余談ですが…
この美術館内にある 『ペペロネ』というイタリアンレストランの
手打ちパスタがとても美味しいのです。
以前は、よく利用していた駅から近いところにあったので何度も行っていたのですが、
この美術館に移ってしまってからはなかなか行く機会がありませんでした。
ですから、大好きな手打ちパスタを久々に味わうことが、
実はこの展覧会を楽しみにしていたもうひとつ理由でもありました♪
私が行ったときはあいにくの雨模様でしたけれど、
お天気のよい日にはテラスにもお席を設けるようですから、
緑溢れる清々しい公園内の空気とともに、
皆さまも美味しいランチなど味わってみてはいかがでしょうか(^^)


nice!(10)  コメント(12)  トラックバック(2) 
共通テーマ:アート

nice! 10

コメント 12

kurohani

ミカエラさん素晴らしい記事ですね!行った様な気分になりました。細江さん撮影の澁澤先生のお写真初めて観ましたが、確かに荻原兄弟に似ている様な(笑)金子國義、四谷シモン辺りはいかにもお好きそうだな〜と言う感じ!四谷シモンの人形結構大きいですよね。若冲の『付喪神図』可愛いですねぇ、、。アルチンボルトも素敵♪奈良原一高の作品もあったのですね?彼の写真好きです。
by kurohani (2007-05-09 23:25) 

ミカエラ

■kurohaniさん、こんにちは♪
いつもコメントありがとうございます~。

細江さんの作品は『眼光気鋭』という、土方巽さんのポートレートもありまして、
それは以前、東京都写真美術館での展覧会のチラシで観たことがありますので、
kurohaniさんもご存知かなと思います。
奈良原さんのは澁澤さんの身の回りの遺品などを凝らした作品でして、
だからなのか、シンプルだけど心が込もっている風で心打たれました(p_;)

>>四谷シモンの人形結構大きいですよね。
↑おお、さすが、ご覧になったことがあるのですね。
私は今回初めて実物を観ました、あまり現代作家さんの人形に興味がなかったので(;^^)
ジュモーのビスクドールとか、そういうものは好きなのですけれど。
あと、人形といえばハンス・ベルメールの作品(写真ですが)も展示されていましたけれど、
これだけは、あまりにもグロテスクでどうしても受け付けませんでした。
ファンでしたらごめんなさい(>_<)

そうそう、エリオット・アーウィングさんの展覧会行ってきましたよ~。
後でご報告に参りますね♪
by ミカエラ (2007-05-10 13:32) 

昼顔

はじめまして。nice有難うございました。実はうっかり編集途中のままアップしてしまっていて、読みづらい箇所などあったかと思います。すみませんでした。沢山書いていらして私のいい加減な感想がお恥ずかしいです^^; 
by 昼顔 (2007-05-11 21:18) 

ミカエラ

■昼顔さん、こんにちは(^^)
コメントとナイスいただきましてありがとうございます~。
そのアイコンは、アトム・エゴヤン監督の『秘密のかけら』の一場面ですよね、
妖しく美しいシーンを思い出しました♪

>>私のいい加減な感想がお恥ずかしいです^^;
↑そんなことはないですよ~、
澁澤さんの大ファンであることが十分伝わってくる記事でしたし、
私と気持ちが同じである方がいらっしゃることがとても嬉しかったです。
昼顔さんが仰るとおり、澁澤さんと美術談義できたらどんなに楽しいことか…(夢~)
でもまあ、私もレベルが天と地ほど違うので、彼のお話を頷いて聞いているだけ…ということになると思います(;^^)
by ミカエラ (2007-05-12 23:19) 

昼顔

そうです、エゴヤンのです!私のブログ、コメント受付にしていなくてごめんなさい。映画評が中心なので中傷が来る場合も考えてコメント受付は不可にしているんです^^;ほぼ内容同じなのですがmixiもやっていて、そっちでもこのエゴヤンのトップにしています(*・ω・*)ゞポリポリ
ミカエラさんのブログ素敵ですね!又来ます。ではまた。
by 昼顔 (2007-05-13 00:18) 

にゅう

こちらでははじめまして。にゅうと申します。
土曜日にこちらの展覧会に行ってまいりました。
お部屋の写真も、赤いソファーやカーペットなんかが現実離れしたデルヴォーっぽい雰囲気がしました。
『ペペロネ』のパスタも美味しかったです(*´ー`)
by にゅう (2007-05-13 02:22) 

ミカエラ

■昼顔さん、こんにちは♪

>>映画評が中心なので中傷が来る場合も考えてコメント受付は不可にしているんです^^;
↑昼顔さんは映画ライターでいらしゃるのでしたね(^^)
私のような者が言うのもなんですが、
特に辛らつな文章では無いですし、簡潔にリズミカルに書かれていらっしゃるので、
私は読みやすくて素晴らしいと思います。
ですので、コメント不可はもったいない気もしますが…
でも周りを気にせず自分のペースで書けるのも魅力ですよね☆
ちょうど昨日『スパイダーマン3』を観てきまして、
昼顔さんのご感想読ませていただきました。
***以下 ネタバレ***
仰るとおり、“許し”がテーマのひとつとなっていて、涙涙の展開でしたね。
そして個人的には、次回からはハリー役のジェームズ・フランコが
登場しないのかと思うと、非常~に残念です(;。;)
by ミカエラ (2007-05-13 23:54) 

ミカエラ

■にゅうさん、こんにちは(^^)
遊びに来て下さってありがとうございます~、とても嬉しいです。

>>お部屋の写真も、赤いソファーやカーペットなんかが現実離れしたデルヴォーっぽい雰囲気がしました。
↑おお、にゅうさんも展覧会行かれましたか!
なるほど、幻想の画家とか夜の画家などど呼ばれるデルヴォーの夢想的な雰囲気がありましたね。
篠山紀信さんの腕前もあるでしょうか、ロマンチックでけだるい空気が漂っていて素敵でした☆

>>『ペペロネ』のパスタも美味しかったです(*´ー`)
↑ご賞味されましたか(^o^)
乾麺ではないので、出来上がりも早いところも嬉しいですよね。
それからあのお店はパンも評判がいいみたいですヨ。
by ミカエラ (2007-05-13 23:55) 

megumi

お久しぶりです。御身体の方は大丈夫ですか?
澁澤さまは、昔政治色が強かった頃の姿が好きです。
三島さまも暁の寺で、彼の事を、小説にしていますよね。
相反する流れのをしているので、認めあっていたのでしょうか?

金子さま、の絵;素敵ですね。
お部屋に飾りたいです。
by megumi (2007-05-28 02:07) 

ミカエラ

■megumiさん、こんにちは(^^)
パリから戻られたのですね、おかえりなさいませ~。
また個性的で素敵なお写真をたくさん撮られましたでしょうか(^^)

>>相反する流れのをしているので、認めあっていたのでしょうか?
↑澁澤さんも『洞窟の偶像』という著書で、三島由紀夫覚書と題して語っていますね。
また手紙も公開していて、その中で澁澤さんの書評に対してとても感激していた様子をみると、仰るとおり互いを理解して認め合っていたといえるのではないでしょうか(^^)

>>金子さま、の絵;素敵ですね。
お部屋に飾りたいです。
↑私は今回初めて観たのですが、オトナとも少女ともつかぬような、
魂のない人形のような不思議~な魅力がありますよね。
澁澤さんのお宅にもこの画家の絵が飾ってありましたよ~。
by ミカエラ (2007-05-28 22:30) 

ミカエラさん、こんばんは
ご訪問、ありがとうございました。
僕も澁澤ファンなので、この展覧会には行きたかったのですが、残念ながら行くことができませんでした。仕方がないので、『澁澤龍彦 幻想美術館』で我慢しています。デルヴォーや金子國義などの作品は、とても魅力的ですね。なかでも四谷シモンの人形は実物を見たかったです。 
澁澤つながりで、過去記事をTBさせていただきましたので、よろしくお願いいたします。
by (2007-06-08 22:24) 

ミカエラ

■lapisさん、こんにちは(^^)
コメントとナイス、そしてTBも頂きましてありがとうございます~。
また、他の記事にも沢山niceを押していただきまして恐縮ですm(_ _)m

lapisさんのアイコンは、フラ・アンジェリコの大天使ガブリエルですね。
虹色の翼がカラフルで綺麗ですね♪

>>『澁澤龍彦 幻想美術館』で我慢しています
↑この本は今回展示してあった作品を全て網羅しているので、
展覧会へ足を運べなかった方々にとっても、よい本だと思います。
更には芸術家たちの略歴付きなのでお勉強になりますし、
澁澤さんをより深く知ることのできるファンにとっては有難い一冊ですね。

>>なかでも四谷シモンの人形は実物を見たかったです。 
↑ふわりと浮遊しているところとか、
それから、知的で、かつ純真といった様子の表情で、
見つめていると清らかな気持ちになるような、素晴らしい作品だったです(*´v`*)
そういえばそんな清楚なところが、アンジェリコの描く天使のようでもありますね。
by ミカエラ (2007-06-09 18:28) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 2

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。

×

この広告は1年以上新しい記事の更新がないブログに表示されております。